『成長なき時代の「国家」を構想する』

  • 2011.02.01 Tuesday
  • 10:21
日曜日の現代経済思想研究会での合評会。

『成長なき時代の「国家」を構想する―経済政策のオルタナティヴ・ヴィジョン』

福利重視の経済成長のあるべき理念をめぐって、編者の中野氏の論考から、政治・経済・法の気鋭の論者の論考まで、とても読み応えのある書物。

リベラルな個の自由を徹底化させる路線と、孤立した個の共同性を回復させる路線は、両立不可能なのかどうかは置いて、ネオリベ的な人々を労働力としても消費者としても裸の個人と見立てて扱う経済世界において、人々の共同性を立て直すという方向性には大いに賛同できる。

この本が狭義の経済政策でなく国家政策をにらんだものであるということをおさえた上で、気になるのは、3点。

ひとつは、自然環境の位置づけ。これまでの経済成長路線も福利を重視しつつ、手段が目的化したという批判があった。人間の福利を重視するアプローチも、自然環境はやはり手段的な価値しかもたないため、無駄な護岸工事やダム建設が行なわれる「可能性」は(福利アプローチでは僅かだとしても)否定できない。

この点に関連して環境経済学などを専門にしているK氏から聞いて、今更ながら驚いたのは、環境経済学という学問の内容。新古典派的な枠組みの「最適汚染水準」というコトバには、まいる…。いや、もちろんコトバが適切ではないというのではなく発想が…。

もうひとつは、歴史性。一昨晩の諫早湾のドキュメンタリーがあったが、単に貧困はよろしくないという形で相対化するのではなく、これまでの政策によって影響を蒙ってきた人々への対策をどうするのかという点。これからの経済状況をにらんでの理念の提言に、そうした点を織り込むのは難しいのは確かだが、この点をこれからどうすべきかはやはり考えておくべきだろう。

最後は、実行に関すること。これはむろんこの本の中でできることではないが、この本で提言されたことを行なう場合に、どのような戦略というか方向性をとればいいのかということ。

大きなうねりを作るとすれば、政府、地方地自体、企業、NPO、大学、市民など、それぞれの協力関係が必要なことは言うまでもない。しかし、とくに経済的事情を含め個々の論理に従って動く各団体をどう方向づけるのか。喫緊に問題解決のために動かなければならない問題が多いのだから、僅かなところではあれ、早急に実行に移していく必要がある。もちろん、編者の中野氏は問題解決に遅々とした動きを見せる部分に義憤をもちつつ、動かれているようだ。
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