祝の島と「時間」

  • 2011.02.15 Tuesday
  • 11:44
『祝の島』を観に九段会館へ行く。旧軍人会館らしい厳かな雰囲気だが、椅子に座り込むと随分と沈むので驚く。昭和の人用だろうか、横幅が狭いので、大柄な人間にはだいぶ窮屈である。

さて映画は1982年に持ち上がった中国電力による原発建設で、今も日々、身を挺しての反対運動が行なわれている祝島の人々を撮ったドキュメンタリーである。

反対運動や原発の問題そのものよりも、島民の暮らしに焦点を合わせている。祝島での暮らしはどのようなものであるか、そこからなぜ反対運動が展開されているのか、どのような反対運動と一緒になって日々の暮らしがあるのか。

とりわけ印象に残ったのは、島で一番大きな棚田を子孫のためにと作った平氏の物語。人力が当然だった時代に、機械化される農業を予見し、大きな棚田を作ったという。しかも興味深いのは、孫の代以降はおそらくそれは誰も耕さなくなって、自然の原野にかえるだろうと言っていたというくだりだ。

人間は自然の物を支配するのではなく、ただ借りているのだという意識がそこには強烈に見られるし、自分の行なっていることは自分が生きている時代のことだけを考えるのではなく、過去と未来を包み込んだ時間の流れを意識しているという点は改めて考えさせられた。

映画の後のトークショーで、内山氏が強調していたのも、この点に関わる。これまで過去に行なわれてきたことと、これから行なわれることとを勘案して、今行なわれるべきことが決められるというのは重要だ。

近代の個人主義は、都市化の現象と大いに関係はしていながらも、ひとつには、こうした時間の束縛の負の側面からの解放だった。それが科学技術の発展や日常生活の変容とともに、時間の流れの中にある人間という視点を欠落させて行ったことは事実だ。

しかしだからと言って、そこから共同体の復活を称揚する言説には性急で浅薄な個人主義批判を感じる。個人主義を採用したからと言って、過去や未来と切断されるわけではないからだ。そしてまさに平氏の逸話にあったように、棚田を耕すも耕さないのもその時々の人間の選択に拠るのだという諦観とも達観ともとれる話は、自律を含みこんでいるようにも思える。

もちろん個人主義の定義はさまざまにある。ここでは、日常的な意味で、個人の自律という薄い意味でしかないが、印象的な場面は、本州と繋がっている上関町の人々の態度である。彼らは祝島の人々と異なって漁業で生業をたてなくともよい。だから原発は近くにできるけれども安全だといわれているし、仕事は漁業である必要はない。政府から補償金ももらえるから反対する必要はないというものだ。

ここにはただ日々の生活を支える選択肢の幅の問題があるだけだ。しかし、その場しのぎの選択肢が多いからと言って、その選択が自分の首を絞めることになるのを見通す必要はある。

厄介なのは、映画でも出ていたが、どうせもうすぐ死ぬんだからということで、波風を立てないようにしてしまおうとする老人たちの姿勢だ。

一方で、これからの人々に大切な環境を残していこうというのもまた老人で、それを次の世代が継ごうとしていることに、一条の光明があるのかもしれない。
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