原発のリスクと人命

  • 2011.07.03 Sunday
  • 08:50
有名ブロガーの池田信夫氏の書いた「自動車や石油火力は原発より危険である」をはじめ、最近のツイッターでも、彼は反原発・脱原発の動きはカルトだとして批判している。

自動車と航空機のどちらが安全かといった有名な話については、リスク評価の在り方でどちらが安全かどうかは決まる(一般的には自動車の方が危険だが、こちらを参照)。

池田氏の上の論考に対しては、こちらの方の批判でほぼ尽くされているように思われる。

リスクに対して便益が上回るというのが原発正当化の根拠である。しかし原発の便益なるものが、よりリスクの低いもので代替可能である点で、これはなんら正当性をもつものではない。

正当性があると思っているのは、現在のエネルギー情況を前提にして、それを変えないというところから出発しているからだ。

また原発に関しては、軍事的な原子力利用と関連して、それが国際政治におけるヘゲモニーを得るための有効なカードであるがゆえに原発を手放すべきではないという議論もあるが、これは本末転倒だろう。

エネルギー政策は政治判断、単にやる気の問題に過ぎない。そのやる気がどの方向に向かうかは理念の問題である。理念なき政治にはかじ取りはできない。原発推進を行なってきた自民党にもその気概はないように見える。。。

また原発と自動車のリスクの比較については、「原発と自動車の危険性比較について」も参考になる。

そもそも原発の場合は、保険が適用されないことからして(もちろん原発の保険はあるが、そのカバーされる額は微々たるものでないに等しい)、リスクではなく不確実性の領域に入る問題であり、その意味で、リスク評価がそもそもできない代物でもあるとも言える。

リスクがあるかどうか、安全かどうかを死者を規準にして語る傾向は浅薄である。村上陽一郎氏が以前、原発で死者は出ていないのであり、安全なんだと力説しておられたことに驚愕した覚えがあるが、放射線に関しては、原発周辺への人的環境的影響を考慮に入れないといけないだろう。

しかも「ただちに健康に影響はない」と3月以降繰り返されている文言に表されているように、長期間の低線量被曝の実態は、敢えてかどうかわからないが、マイナーな研究者以外、手を出していない。

放射線治療の線量を持ち出して、現在の状況は安全だという主張も、放射線による人体への影響の点で、まったく異なるレベルの問題であるから、的外れである。

東大SPHのフォーラムでも指摘されていたが、放射線の人体への影響については閾値があるかないかをめぐって対立した立場がある。どこまでの被曝ならば安全だということが言えないという立場と、どこまでの被曝ならば安全だという立場との対立である。

こうした二つの立場があることからして、放射線の影響というのは未知数ともいえる部分がいまだにあるということであり、そうすると、安全基準というものは、もっと慎重に定められる必要がある(なお、上のフォーラムでは、こちらこちらでの発言が重い問題提起をしている)。

健康被害(一生、その傷を負って生きていかざるをえないような状況)が起きてから、規準を定めた時には分かりませんでしたで済む問題ではない。

正直、考えがまとまらないが、備忘録として。。。
コメント
お久しぶりです。暑い日がつづきますね。
原発に対するご意見ごもっともです。私も今回の東電、安全保安院、経済産業省などの対応には、日本の民主主義の遅れとマスコミのジャーナリズム喪失とともに、驚きと怒りと、それを超えてあきれ果てている次第です。

東電の株主総会に出席して(1株だけこのために残しておいたのです)発言しようと思ったのですが、できず、わたしのブログにルポを書いています。
親戚が福島県郡山にいると、なお更冷酷な東電の経営陣の態度とお粗末な事故処理に腹が立ってくるのです。

これからの放射能汚染がどれだけ拡大するのか、予想がつきませんが、政治も大企業もマスコミも、本当の意味で変わらなくては息子や孫の時代が可愛そうです。
  • jupiter
  • 2011/07/05 9:11 AM
株主総会。なかなか一筋縄ではいかないことが多いですね。物事には善悪両面あるものですが、今回のことは、あまりにも酷過ぎると思います。

というよりも、いまだに日本社会は変わっていなかったのかと考えさせられています。
  • i-41
  • 2011/07/07 8:31 PM
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